Column理想的なwork私にとっての「ガラスの天井」

私にとっての「ガラスの天井」

「あなた方は価値があり、パワフルで、この世界であなた自身の夢を達成したり、追求したりする全てのチャンスと可能性を決して疑わないでください」

ヒラリー・クリントンさんの大統領選挙・敗北宣言スピーチ

2016年11月、アメリカ大統領選挙でトランプ氏に敗れたヒラリー・クリントンさんが敗北宣言・スピーチで語っていた言葉を今でも鮮明に覚えています。

Now, I – I know – I know we have still not shattered that highest and hardest glass ceiling, but some day someone will and hopefully sooner than we might think right now.

And – and to all the little girls who are watching this, never doubt that you are valuable and powerful and deserving of every chance and opportunity in the world to pursue and achieve your own dreams.

さて、私たちはまだその高くて硬い「ガラスの天井」を打ち破れないことを知っています。
しかしながら、いつの日か、誰かが、私たちが今考えているよりも早く「ガラスの天井」を打ち破るでしょう。

そして、今これを見ている小さな女の子たちへ、あなた方は価値があり、パワフルで、この世界であなた自身の夢を達成したり、
追求したりする全てのチャンスと可能性を決して疑わないでください。

2016年11月9日、ヒラリークリントン氏の演説から翻訳

ヒラリー・クリントンさんが大統領選挙の敗北宣言で語られたglass ceiling=「ガラスの天井」は、目には見えないのですがそれを阻む天井がある、という比喩表現です。

ヒラリーさんがここで使われた「ガラスの天井」が阻んだものは、女性の社会進出、女性が大統領になることでした。
多様性が尊重される印象のアメリカにおいても、女性だからできないこと、女性だから実現できないことが、ガラスのように目には見えにくいですが、阻む壁があることを訴えられました。

今から約6年前、映像としてアメリカから伝えられた「ガラスの天井に阻まれた」のメッセージ。
その言葉を聞いた瞬間、つよい焦燥感を覚えました。
私もこれまで「ガラスの天井」に阻まれてきた、と。

私にとってのはじめての「ガラスの天井」=厳しい就職環境

まずはじめの「ガラスの天井」は新卒者として就職活動を行い、1社も「内定」を得られなかったことでした。
私が新卒者として就職活動を行った2000年代前半は「就職氷河期」と呼ばれる程、新卒者を採用する企業数が大幅に減少していた時期で、就職活動から約20年を経て政府が「就職氷河期に已むなく非正規社員として社会に出ることとなったおよそ100万人を支援する」と表明せざるえないほど、新卒就活生にとっては本当に厳しい就職環境でした。

そんな「就職氷河期」世代の一人である私も、4月から正社員の新卒者として社会人をスタートさせることを疑いもしませんでしたが、現実は「内定」を一つも取れずに、派遣社員=非正規社員として働き出すことになりました。

「就職氷河期」世代で正社員として働けなかった新卒者に対しては、「内定を獲得する努力が足りなかったのでは」とか「自己分析や業界研究が足りなかったのでは」といった「自己責任」のレッテルを張られることもありますが、
私は「採用企業の絶対数が足りなかった時代の責任は新卒者にはなかった」と思っています。

「では、誰の責任だったの?」
という犯人捜しには意味はないと思っています。
今となっては何も問題は解決されないからです。

ただ私は、私の同世代の新卒者で、私と同様に不本意ながら非正規社員として社会人をスタートした人たちには、就職を阻む「ガラスの天井」があったと思っています。

私にとっての二つ目の「ガラスの天井」=派遣社員から正社員への転職活動

そして私にとっての二つの「ガラスの天井」だったのが、派遣社員から正社員になることを阻む壁でした。

不本意ではありましたが、私が学校時代と同じアパートから通える範囲で、派遣社員として派遣先で働き始めることにしました。
派遣社員の私に与えられた仕事は、データ入力です。
一定のルールの下、朝から夕方までルーティーンワークをこなしました。

私が雇用されている派遣元企業と、私が働いている職場=派遣先企業との雇用契約は、6カ月間で、
派遣契約が切れる1ヵ月前にはキチンと担当者から「次の契約については…」と「宣告」を受け続けました。

2000年以降、数年おきにころころと変わる派遣法によって、
派遣される会社は同じでも、派遣される部署が変わったりもしました。
それでも、私に与えられる仕事は、誰でもできる仕事でしたが、誰からやらなければならない仕事でもありました。
気持ち的には「雑用…」と自分で、自分の与えられた仕事を卑下していたことも。

20代で派遣社員をしていた頃、何度か正社員への転職を試みたことがありました。
ですが、20代の後半まではまだまだ「就職氷河期」の影響が残っており、決して、新卒就活生の就職活動も楽ではなく、正社員への転職も簡単とはいえない社会でした。
そして、私の正社員への転職活動を踏み止まらせたのが「職務経歴」でした。

私は新卒者としての就職活動を失敗してから、一度も正社員として雇用されたことはありませんでした。
派遣社員として派遣されていた私は、しっかりとした教育プログラムを受けさせてもらったこともありません。
また仕事の中で一度も自分で考え、自分で仕事を完結させた経験もありませんでした。

私の「職務経歴」といえば、
・○○○大学卒業後、
・派遣会社A社から派遣され、派遣先B社にてデータ入力作業を〇〇年行う。
としか書けませんでした。

「就職氷河期」の厳しい就職環境を経験している私は、
このような「職務経歴」を持って転職活動をする勇気が湧いてきませんでした。
勇気を振り絞って、ダメもとでも転職活動をしなかったことを「自己責任」というのであれば、それはそうなのでしょう…。

今になって政府が「就職氷河期世代の職務能力を高めるような支援を…」と仰っておられますが、
もっと早くそのような政策を打ち出して欲しかったものです。

私には派遣社員としてルーティーンワークのみを与えられる職場で過ごした数年間という時の経過もあり、
派遣社員=非正規社員から正社員へ転職する際にも「ガラスの天井」に阻まれてしまった気がします。

それでも夢を追求するチャンスと可能性を疑わない

こんな私ですが、ヒラリー・クリントンさんがスピーチで語られた、
「あなた方は価値があり、パワフルで、この世界であなた自身の夢を達成したり、
 追求したりする全てのチャンスと可能性を決して疑わないでください」という言葉が好きです。

あなた自身の夢を達成したり、追求したりするチャンスと可能性を疑わない、この言葉で何度も勇気づけられました。

そう、「あなた自身の」夢を追求すれば良いのでしょう。
周りの人たちが私をどう思っていようと、
私自身の幸せを、
私自身の理想的な生活と仕事を、
追求すれば良いのだと思います。

「ガラスの天井」のことを思って悩むよりも、
「ガラスの天井」がない私だけの世界でどこまでも行きたいと思います。


【文中の参考・引用文献】
・株式会社リクルート「第39回ワークス大卒求人倍率調査(2023卒)」(2022年)
・厚生労働省「就職氷河期世代の方々への支援のご案内」

Author's Profile

プロフィール

学生時代に想い描いていた人生は、自分の社会的な存在価値を表してくれるような❝しっかりとした❞会社に就職して、20代で結婚し、30代で家族に恵まれ、子育てや家庭生活と仕事を両立させる、そのような「理想的」な生活。 しかしながら、現実は、「理想」とは程遠く、新卒者として臨んだ就職活動に❝失敗❞し、非正規社員として社会人をスタートし、学生時代からのパートナーと別れ、友人たちとも疎遠となり、20代後半から「孤立」し始め、30代はずっと「孤独」な生活を過ごすことに。 「孤独」の痛さや、孤独の中で毎日働く「虚しさ」を10年以上経験する。 40歳で「前向きに」生きることを決意し、カウンセラーの資格を活かし、自分と同じような「孤独」と「仕事」に不安と悩み、虚しさを抱えた方々に、ナラティブ・アプローチ(『語り』を通じた問題解決)を用いて、寄り添う活動を行っている。

よく読まれているColumn

ColumnTag