Column理想的なwork私は新卒者の頃から会社の「メンバー」にはなれなかった。今いわれている「ジョブ型雇用」と「メンバーシップ型雇用」に思うこと。

私は新卒者の頃から会社の「メンバー」にはなれなかった。今いわれている「ジョブ型雇用」と「メンバーシップ型雇用」に思うこと。

20年以上前は「メンバー」になることで得られるものが多かったように思います。

「日本的雇用システム」は「メンバーシップ型雇用」とも呼ばれるようです。

最近「ジョブ型雇用」という言葉をたびたび目にすることがあります。
「ジョブ型雇用」を提唱している経済団体によれば、
「ジョブ型雇用」とは「当該業務等の遂行に必要な知識や能力を有する社員を配置・異動して活躍してもらう専門業務型・プロフェッショナル型に近い雇用区分をイメージしている」とのことで、
これから「ジョブ型雇用」も取り入れた雇用制度が企業に求められる、ようです。

「これから」はジョブ型雇用も取り入れて、ということから、
「いま」はなに型雇用なのでしょうか。
同じく経済団体によれば、

日本型雇用システムは、(1)新卒一括採用(2)長期・終身雇用(3)年功型賃金(4)企業内人材育成――などを主な特徴としており、メンバーシップ型雇用とも呼ばれています。

新卒一括採用は、企業が計画的に採用しやすく、日本の若年者の失業率が国際的にみて低い要因とも考えられています。
また、長期・終身雇用と年功型賃金により、社員が雇用面で安心感を持ち、経済面で安定感が得られることで、高い定着率とロイヤルティーにつながっています。
企業内人材育成は、OJTなど業務遂行を通じた育成や異動等によって、多様な職務遂行能力(職能)を備えた人材の育成に適しています。
このように日本型雇用システムにはさまざまなメリットがあり、多くの企業で導入されています。

一般社団法人日本経済団体連合会HPより


と説明されておりまして、ここから「いま」多くの企業で導入されている雇用制度は、
「メンバーシップ型雇用」、または「日本型雇用システム」と呼ばれている制度のようです。

私も「メンバーシップ型雇用」で働くことを疑わなかった学生時代

私も約20年前に新卒者として就職活動をしていた頃は、
新卒者一括採用で卒業と同時に「内定」を得ていた会社に就職し、
学校を卒業して直ぐに就職した会社でずっと働くことを意識していましたし、
すっと働くことで「同期」や上司、先輩、また後輩たちとも「仲間」「メンバーの一員」として、密な人間関係を築きたいとも思っていましたし、
「やりたいこと」「やりたい仕事」であれば一生懸命になって挑戦したい、とも思っていました。
(詳しくはここにも書かせて頂いております「約20年前の就職活動に失敗し新卒派遣社員になったことも、「良い経験だった」と思えるように「理想の働き方」を探し続けます。」)

在学中に就職活動を行い、在学中に「内定」をもらうことで卒業後の4月から入社する会社が決まっていて、入社した会社でずっと働くことを前提として、会社から各種の人材教育を施してもらう、
就職活動を行っていた頃の私は「当然私もこのような働き方をするものだ」としか想像できておりませんでした。
今になって調べてみますと、新卒者として会社に一括採用され、長い間同じ会社で働くことは、
「日本型雇用システム」=「メンバーシップ型雇用」としてある種❝独特な❞雇用制度だったようです。

私は就職氷河期真っ只中の2000年代前半に新卒者として就職活動を行い、残念ながら「内定」を1社からも得ることは叶わず、已むなく非正規社員の派遣社員として6カ月の雇用契約から社会人が始まりました。

私は「メンバーシップ型雇用」の「メンバー」になれずに社会人となりました。
新卒者として入社できていれば「メンバーの一員」として、
「長期・終身雇用と年功型賃金により、社員が雇用面で安心感を持ち、経済面で安定感が得られることで、高い定着率とロイヤルティー」が私も得られていたと思います。
また「企業内人材育成は、OJTなど業務遂行を通じた育成や異動等によって、多様な職務遂行能力(職能)を備えた人材の育成」をしてもらえたと思います。

「メンバー」ではなかった派遣社員の私と「メンバー」である正社員との違い

派遣社員として、雇用契約を結んでいる派遣元から、
「働く場所」としての「会社」であります派遣先に派遣されている私には、
雇用面での安心感も、経済面での安定感もなく、会社への愛着や帰属意識もありませんでした。

そして、雇用契約のない派遣先企業に「直接雇用」されている「メンバー」である正社員からは、派遣社員の私は「メンバーの一員」とは見て頂けず、同じフロアで「空間を共有」している「空気」のような存在でした。
私も派遣されたその日から、私と派遣先企業の正社員とは「異なる存在」なのだ、と理解して、自分から必要以上に「メンバー」に近づくことはありませんでした。

私が雇用契約を結んだ派遣元企業には、契約の際に数回訪問しただけで、派遣元企業の方々と何か同じ価値観を共有しているとは思えませんでした。

私は新卒者の頃から一度も会社の「メンバー」になることはありませんでした。
同じフロアに沢山の人はおりましたが、
「メンバー」ではない私はずっと孤独でした。

同じフロアの「メンバー」である正社員の方々は、
時に上司から怒られ、時に意見の相違からぶつかるような場面がありましたが、
それもこれからもずっと同じ会社に雇用され、
この会社の将来が、直接自分の人生設計にも関わってくることなので、
真剣に自分たちの仕事について議論しているのだと、
私はフロアの端で思っていました。

私のような「ジョブ」で雇用されている派遣社員にとっては、
「いま」与えられている仕事=「ジョブ」をミスなくこなすことだけが関心事で、
派遣されている会社の将来や事業がどのようになっても自分が気にする問題ではないと割り切っていました。
会社の将来について責任(や興味)が100%ないということは気楽かもしれませんが、
学校を卒業した瞬間から、「働くこと」とは与えられた狭い範囲の「ジョブ」をこなすこと、
と割り切らざるを得なかった私には、
「働く意義」をなかなか見出せず、
多くの人が一つも目標達成に向かって努力するような「ダイナミズム」や「達成感」を感じることもできませんでした。

「何も苦労しなくても良い」ことが本当に幸せなのか、は少し考えてみる余地があるかと

たまに「派遣社員さんは仕事に対するプレッシャーもなくて精神的に健康でいられますよね」と仰る方もおられますが、
10年以上「ジョブ」だけをこなす働き方をしておりますと、
プレッシャーがないということは、
達成すべき目標がない、もしくは低いということで、
達成すべき目標がない、もしくは低いということは、
がんばって努力して目標を達成した時に得られる「喜び」もなく、
多くの人たちと同じ目標達成に向けて努力するという「楽しさ」を知らず、
同じ目標を共有した「仲間意識」という大切な感情を育むこともない、
ある種の「虚しさ」と引き換えなのだと私は思うのです。

新卒者で、同じ会社でずっと働くことを前提とした、企業内人材育成に加わることのできなかった私は、派遣社員以外で、会社や職業を選ぼうと思っても、自由に職業選択するための「(職務遂行)能力」を養う方法が余り多くはありませんでした。

与えられた狭い範囲の「ジョブ」を日々こなしている中では、
正社員として転職するためにはどのような「能力」が必要となり、
どうすればその「能力」を得られるのか、
といったことを想像することが難しくなっていったような気がします。

与えられた「仕事」をこなし続けることでも、一人の生活はできてしまっていましたので、
それ以上、「働く意義」や「多くの人たちと一緒になって努力する」ということを、苦労しながら考えることを私は避けてしまいました。

もし私が正社員の「メンバー」だったなら、
私という社員に、
職務遂行能力をどのように身につけさせるか、
そのためにどのような部署で、どのような職務経験を積ませるべきか、
将来的には会社のどのようなポジションを担ってもらうか、
といった長期的なビジョンについても会社がレールを敷いてくれたのかもしれません。

そこで「これから」は「ジョブ型雇用」を会社も取り入れていくことが求められるようです。
「ジョブ型雇用」は「当該業務等の遂行に必要な知識や能力を有する社員を配置・異動して活躍してもらう専門業務型・プロフェッショナル型に近い雇用区分」のようですので、
私は40代ではありますが、専門的な知識や能力を身につけることで「活躍」できる可能性がでてくるようです。

私は「メンバー」にはなれませんでしたが、
「プロフェッショナル」には「これから」なれる可能性が残されているのかもしれません。
理想的な生活と「仕事」のために、今からできることを模索したいと思います。


【文中の参考・引用文献】
・一般社団法人日本経済団体連合会「春季労使交渉・協議の焦点<4>」(2022)
・佐藤春樹「『ジョブ型雇用』を巡る議論をどのように理解すべきか」日本労働研究雑誌(2022)

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プロフィール

学生時代に想い描いていた人生は、自分の社会的な存在価値を表してくれるような❝しっかりとした❞会社に就職して、20代で結婚し、30代で家族に恵まれ、子育てや家庭生活と仕事を両立させる、そのような「理想的」な生活。 しかしながら、現実は、「理想」とは程遠く、新卒者として臨んだ就職活動に❝失敗❞し、非正規社員として社会人をスタートし、学生時代からのパートナーと別れ、友人たちとも疎遠となり、20代後半から「孤立」し始め、30代はずっと「孤独」な生活を過ごすことに。 「孤独」の痛さや、孤独の中で毎日働く「虚しさ」を10年以上経験する。 40歳で「前向きに」生きることを決意し、カウンセラーの資格を活かし、自分と同じような「孤独」と「仕事」に不安と悩み、虚しさを抱えた方々に、ナラティブ・アプローチ(『語り』を通じた問題解決)を用いて、寄り添う活動を行っている。

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