Column理想的なworkもし新卒者の時に正社員として雇用されて「いれば」、働く「仲間」たちと❝充実した❞「仕事」で「アイデンティティ」は獲得できたのでしょうか。

もし新卒者の時に正社員として雇用されて「いれば」、働く「仲間」たちと❝充実した❞「仕事」で「アイデンティティ」は獲得できたのでしょうか。

「正社員だから」充実した仕事をしている訳でも、仲間に囲まれている訳ではなさそうです。

自分を語れる「言葉」=アイデンティティ(自己同一性)が無かった私

私は2000年代前半に大学卒業の時期を迎え、新卒者としての就職活動を「就職氷河期」真っ只中に行わざるを得なくなり、結果、正社員としての内定を1社からも得ることは出来ずに卒業をしました。

大学進学を機に親元=地元を離れ、アパートで一人暮らしをしておりまして、大学卒業後も「実家」に戻ることは考えておりませんでした。

親元を離れ、一人暮らしを続けるための生活費を得るため、已むなく非正規社員の派遣社員として、4月から働き出すこととなりました。

大学を卒業してすぐの新卒者で派遣社員の私に与えられました「仕事」は、
すぐに覚えられ、誰にでもできますが、誰かはやらなければならないデータ入力業務でした。
社会人としての教育を何も受けていない(受けることのできなかった…)私でも、数日で覚えられる仕事でした。
俗にルーティーンワークと呼ばれる単純作業だったともいえます。

私はとくに秀でた才能も努力もしたことはなく、
とくに「取り柄」のある大学生でもなかったこともあり、
就職活動中に行いました「自己分析」で明らかになったことは、
私は「仕事」を通じて、
「多くの仲間たちと、懸命に働いて、達成感と喜びを分かち合える人」になりたいと、
真面目に考えておりました。

学生時代に考えておりました私にとっての「仕事」は、
単に収入を得るための手段ではなく、
「多くの仲間たちと、懸命に働いて、達成感と喜びを分かち合える人」という、
アイデンティティ(=自己同一性)を得るために、
不可欠なものと考えておりました。
(詳しくはここに書かせて頂きました。「20代半ばのパートナーとのお別れ、その原因となった❝酷い❞私の心の底にあったもの。~取り柄のなかった私は「仕事」を通じて「アイデンティティ」を得たいと願っておりました。)

「多くの仲間たちと、懸命に働いて、達成感と喜びを分かち合える人」なりたい、と。

就職活動を始める前までに、例えば、
「私は、地元の『お祭り』のメンバーとして子供の頃から地域活動に積極的に参加している(人です)」とか、
「私は、小学校の時からピアノを習ってきて、今でも演奏会に出ている(人です)」とか、
「私は、海外で生活をしていたこともあり、海外の方ともコミュニケーションが取れます(取れる人です)」といった、
自分を語れる「言葉」=アイデンティティ(自己同一性)を持っておりませんでした。

だからこそ、大学を卒業して働き出した後は、
「仕事」を通じて「多くの仲間たちと、懸命に働いて、達成感と喜びを分かち合える人」、
というアイデンティティを求めていたのです。

ですが、現実は、就職活動に失敗して、
派遣社員に私に与えられた仕事は、一人でパソコンの前に座り、データを黙々と入力する仕事で、
「多くの仲間」もいなければ、
働くことでの「達成感」もなければ、「喜び」もありませんでした。

私が働くことで得られたのは、
孤独感と焦燥感でした。

私が欲しておりました、
「多くの仲間たちと、懸命に働いて、達成感と喜びを分かち合える人」といった、
アイデンティティ(自己同一性)は得られることはありませんでした。

「仕事」も思い通りにはならなかった私は、
私の周りの大切な人たちとの関係を自ら切るようなことをしてしまい、
孤独な独身生活を送ることになったのです。

さて、「もし〇〇だったなら」とか「もし〇〇ならば」といった「たら・れば」を願っても、
何も現実は変わりませんが、
もし私が正社員として入社できていた「なら」、
私は望んだアイデンティティ=「多くの仲間たちと、懸命に働いて、達成感と喜びを分かち合える人」を獲得できていたのでしょうか。

私だけが「不幸」だったのでしょうか…、調査結果を見てみますと。

この私の問いに対して気になる調査を見つけました。
国際比較調査グループISSPの「仕事と生活(職業意識)」調査をもとにNHK放送文化研究所の村田ひろ子氏がレポートにまとめ発表されました「何が仕事のストレスをもたらすのか」です。

この調査によれば、
「仕事が面白いと思う」社会人は男女ともに調査対象31ヵ国中、最下位に近い程少なかったようです。

「仕事が面白いと思う」男性は43%(調査対象31カ国中30位)、
同じく「仕事が面白いと思う」女性は50%(調査対象31カ国中29位)、
といった結果になっています。

私は新卒者の頃から非正規社員の派遣社員として、契約の期間中、決められた仕事のみをこなすことを求められておりましたので、「職務」と契約をベースにした働き方だから、❝つまらない❞と思っておりましたが、
この調査結果をみますと、派遣社員だから、非正規社員だから、仕事が❝つまらない❞のではなく、
日本の社会人の多くが仕事は❝つまらない❞と考えておられたようにも思えます。

国の調査におきましても、
「仕事に打ち込んでいる時に『充実感』」を感じている人は30.1%にとどまったようです。
約7割の社会人が「仕事に打ち込んでいる時に『充実感』」を感じていない、
ということのようです。

とくに女性は「仕事」に対して「充実感」を得られていないようで、
「仕事に打ち込んでいる時に『充実感』」を感じている方は27.9%と、
3割を切っている状況のようです。

私は「派遣社員だから…」と勝手に思い込んでおりましたが、
私のような非正規社員だけでなく、正社員であっても、
雇用形態に関わらず、
「仕事は面白い」と「思えない」方が半数以上おられ、
「仕事に充実感」を「感じない」方が7割程度もおられることが分かりました。

少し意外な結果に私の目には映りました。
私の心の中に「もし正社員だったなら、きっと充実した仕事をできていたはず」という思いがあったからかもしれません。

これだけ正社員、非正規社員に関わらず、
「仕事」に対してネガティブな思いを持たれている方が多いということは、
私が「仕事」を通じて得たいと願っておりましたアイデンティティは、
どこの会社でも、たとえ正社員であったとしても、
得ることの叶わないものだったのでしょうか。

私だけが職場で「仲間」のいない状況(=孤立)だったのでしょうか。

また私は「仕事」を通じて「多くの仲間たちと、懸命に働いて、達成感と喜びを分かち合える人」になりたいと思っておりましたが、
社内の「仲間」のベースとなります経営者と従業員の関係性について尋ねたところ、
「経営者と従業員の関係が『良い』」と答えた、
男性は54%、調査対象31カ国中30位、
女性は60%、調査対象31カ国中28位、
と「仕事が面白いと思う」の回答と同じように調査対象国の中では最下位に近い程、
経営者と従業員の関係が「良くない」ようです。

この調査結果だけを見ますと、
私が就職前に想い描いておりました「多くの仲間」と「達成感と喜びを分かち合う」という雰囲気は、すべての会社で得られるものではなさそうです。

自分だけが「不幸」だと思い込んでおりました…。

大学新卒者として就職活動を行ってから約20年余り、
私は非正規社員として社会人をスタートさせた「から」、
不幸になった、と思っておりました。

ですが、今改めて、私以外の方がどのような思いで働かれているかの調査結果を見ますと、
必ずしも、
正社員だから充実した仕事ができている訳でも、
正社員だから「仲間」に囲まれる訳でもなさそうです。

このことが約20年前に分かってい「れば」、
私はパートナーや友だちを失わずに済んだのかもしれません。
「私だけが『不幸』なのではない」と気づけただけで、
少しは人生が違っていたの「かも」しれません。

それでも、
私はこれから前を向いて、人生を歩んでいきたいと思います。


【文中の参考・引用文献】
・「何が仕事のストレスをもたらすのか~ISSP国際比較調査「仕事と生活(職業調査)から~」村田ひろ子(2018)
・「生活調査報告書平成30年6月調査 付表時系列表」内閣府(2018)

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プロフィール

学生時代に想い描いていた人生は、自分の社会的な存在価値を表してくれるような❝しっかりとした❞会社に就職して、20代で結婚し、30代で家族に恵まれ、子育てや家庭生活と仕事を両立させる、そのような「理想的」な生活。 しかしながら、現実は、「理想」とは程遠く、新卒者として臨んだ就職活動に❝失敗❞し、非正規社員として社会人をスタートし、学生時代からのパートナーと別れ、友人たちとも疎遠となり、20代後半から「孤立」し始め、30代はずっと「孤独」な生活を過ごすことに。 「孤独」の痛さや、孤独の中で毎日働く「虚しさ」を10年以上経験する。 40歳で「前向きに」生きることを決意し、カウンセラーの資格を活かし、自分と同じような「孤独」と「仕事」に不安と悩み、虚しさを抱えた方々に、ナラティブ・アプローチ(『語り』を通じた問題解決)を用いて、寄り添う活動を行っている。

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